[1992年開催(1991年映画作品対象)]第64回アカデミー賞(オスカー賞)受賞映画作品(ノミネート含む) まとめ・一覧 / List of Academy Awards(The Oscars) Nominees 〜アメリカ合衆国の優れた映画と関係者が毎年部門別に表彰されるAMPAS主催の映画賞〜
アカデミー賞(Academy Awards)とは、映画芸術科学アカデミー(Academy of Motion Picture Arts and Sciences、略称AMPAS)が主催する、アメリカ合衆国における映画の健全な発展と芸術・科学の品質向上などを目的とした映画賞です。毎年、キャストやスタッフなどの映画関係者を部門別に表彰し、その優れた成果を讃えています。
受賞作品・受賞者には賞金は出ませんが、金色のオスカー像(Oscar statuette)が授与されることから「オスカー賞(The Oscars)」とも広く呼ばれています。このオスカー像は映画界における最高の栄誉の象徴として世界中で認知されています。
アカデミー賞の歴史は、世界三大映画祭(カンヌ国際映画祭、ベルリン国際映画祭、ヴェネツィア国際映画祭)よりも古く、第1回の授賞式は1929年に開催されました。以来、世界中が注目する映画界最大のイベントとして、その権威と影響力は年々高まり続けています。
特にアカデミー賞へのノミネートおよび受賞結果は世界中のメディアで大きく報道されるため、各国における対象映画の興行成績や配信需要に対して計り知れない影響力を持っています。
アカデミー賞のノミネート作品・受賞作品は、映画界で著名なプロデューサー、監督、脚本家、俳優、批評家などにより構成される約1万人のアカデミー会員による投票で選ばれます。その高い評価基準と選考の厳格さから、受賞作品は世間でも大きな話題となり、映画ファンならば一度は見ておくべき作品と言えるでしょう。
第64回アカデミー賞(1992年)の概要
第64回アカデミー賞授賞式は、1992年3月30日にカリフォルニア州ロサンゼルスのドロシー・チャンドラー・パビリオン(Dorothy Chandler Pavilion)で開催されました。司会はビリー・クリスタル(Billy Crystal)が務め、対象となったのは1991年に公開された映画作品です。
この年のアカデミー賞は、映画史に残る歴史的な授賞式となりました。ジョナサン・デミ監督の『羊たちの沈黙(The Silence of the Lambs)』が作品賞・監督賞・主演男優賞・主演女優賞・脚色賞の主要5部門を独占受賞するという快挙を達成しました。これはアカデミー賞の歴史上、1934年の『或る夜の出来事(It Happened One Night)』、1975年の『カッコーの巣の上で(One Flew Over the Cuckoo's Nest)』に続く史上3作目の偉業です。また、『羊たちの沈黙』はホラー・スリラー映画として初めて作品賞を受賞した作品としても知られており、この記録は現在も破られていません。
ディズニーの長編アニメーション映画『美女と野獣(Beauty and the Beast)』がアニメーション映画として史上初めて作品賞にノミネートされたことも、この年の大きなトピックでした。技術部門では、ジェームズ・キャメロン監督の『ターミネーター2(Terminator 2: Judgment Day)』が視覚効果賞をはじめ4部門で受賞し、CGI技術の新時代を切り開きました。
今回はこのように映画史的にも非常に重要な第64回アカデミー賞(オスカー賞)のノミネート映画作品・受賞映画作品について、全部門の結果を詳しく紹介します。
[1992年開催(1991年映画作品対象)]第64回アカデミー賞(オスカー賞)受賞映画作品(ノミネート含む) まとめ・一覧 / List of Academy Awards(The Oscars) Nominees 〜アメリカ合衆国の優れた映画と関係者が毎年部門別に表彰されるAMPAS主催の映画賞〜
作品賞 / Sakuhin Shou[Best Picture]
作品賞(Best Picture)は、アカデミー賞の中で最も権威と知名度を誇る最高位の部門であり、その年に公開された映画作品の中から最も優れた一作のプロデューサーに贈られます。受賞作品は「映画芸術の頂点」として世界中で認識され、受賞発表は授賞式のクライマックスを飾る最大の瞬間です。第64回では、ジョナサン・デミ監督のサイコスリラー『羊たちの沈黙(The Silence of the Lambs)』が受賞し、同作は作品賞・監督賞・主演男優賞・主演女優賞・脚色賞の主要5部門を完全独占する「ビッグファイブ」という史上3作目の偉業を達成しました。また、ホラー・スリラー映画が作品賞を受賞したのは史上初のことであり、この記録は現在も破られていません。さらに、ウォルト・ディズニーの長編アニメーション映画『美女と野獣(Beauty and the Beast)』がアニメーション映画として史上初めて作品賞にノミネートされたことも、映画史における画期的なトピックとして広く知られています。
| 受賞 Winner |
羊たちの沈黙[The Silence of the Lambs] |
| ノミネート Nominees |
美女と野獣[Beauty and the Beast] |
監督賞 / Kantoku Shou[Best Director]
監督賞(Best Director)は、その年の映画界において最も卓越した演出力・芸術的ビジョン・物語構成力を発揮した映画監督に贈られます。プロデューサーに贈られる作品賞とともにアカデミー賞の主要部門として位置づけられており、受賞は監督の才能が映画業界に正式に認められた証と言えます。第64回では、ジョナサン・デミ(Jonathan Demme)が『羊たちの沈黙』で受賞し、主要5部門独占達成の一翼を担いました。デミは原作小説の持つ緊張感と心理的深みを巧みに映像化し、FBIの訓練生クラリスとハンニバル・レクター博士の対話シーンに抜群の緊張感を生み出したことが高く評価されました。一方、当時わずか23歳のジョン・シングルトン(John Singleton)が『ボーイズ'ン・ザ・フッド(Boyz n the Hood)』でノミネートされ、アフリカ系アメリカ人として監督賞史上最年少のノミネートという歴史的な記録を樹立しました。リドリー・スコット(Ridley Scott)が『テルマ&ルイーズ』、オリバー・ストーン(Oliver Stone)が『JFK』でそれぞれノミネートされ、多彩な才能がしのぎを削った部門でした。
| 受賞 Winner |
羊たちの沈黙[The Silence of the Lambs] |
| ノミネート Nominees |
ボーイズ’ン・ザ・フッド[Boyz n the Hood] |
主演男優賞 / Shuen Danyuh Shou[Best Actor]
主演男優賞(Best Actor)は、その年の映画界において最も傑出した演技を披露した男優に贈られる栄誉です。演技の深みや役への没入度、作品への貢献度などが総合的に評価されます。第64回では、ウェールズ出身のアンソニー・ホプキンス(Anthony Hopkins)が『羊たちの沈黙』でハンニバル・レクター博士を演じた演技で受賞しました。驚くべきことに、ホプキンスのスクリーン出演時間はわずか約16分間(映画全体の約13%)に過ぎませんでしたが、その短い出演時間の中で放つ圧倒的な存在感と知性的な狂気の演技は、映画史上最も印象的な悪役の一つとして永遠に記憶されています。この受賞は「最少の出演時間で主演男優賞を受賞した」記録として映画ファンの間で広く知られています。ノミネートにはウォーレン・ベイティ(バグジー)、ロバート・デ・ニーロ(ケープ・フィアー)、ニック・ノルティ(サウス・キャロライナ/愛と追憶の彼方)、ロビン・ウィリアムズ(フィッシャー・キング)という錚々たる顔ぶれが名を連ねました。
| 受賞 Winner |
羊たちの沈黙[The Silence of the Lambs] |
| ノミネート Nominees |
バグジー[Bugsy] |
主演女優賞 / Shuen Joyuh Shou[Best Actress]
主演女優賞(Best Actress)は、その年の映画界において最も傑出した演技を披露した女優に贈られる最高の栄誉です。第64回では、ジョディ・フォスター(Jodie Foster)が『羊たちの沈黙』のFBI訓練生クラリス・スターリング役で受賞し、1988年度の『告発の行方』に続く2度目のアカデミー主演女優賞を獲得しました。フォスターは、純粋で強い意志を持ちながらも内なる恐怖と戦うクラリスというキャラクターを繊細かつ力強く演じ、アンソニー・ホプキンスのハンニバルとの対話シーンを生き生きとしたものにする上で不可欠な演技を発揮しました。また、スーザン・サランドン(Susan Sarandon)とジーナ・デイヴィス(Geena Davis)が同じ作品『テルマ&ルイーズ』でダブルノミネートされるという異例の事態も注目を集め、女性の連帯と自立をテーマにしたこの作品の社会的インパクトと芸術的評価の高さを証明しました。ローラ・ダーンが自身の母ダイアン・ラッドとともに同年のアカデミー賞にノミネートされた母娘同時ノミネートも話題を呼びました。
| 受賞 Winner |
羊たちの沈黙[The Silence of the Lambs] |
| ノミネート Nominees |
テルマ&ルイーズ[Thelma & Louise] |
助演男優賞 / Joen Danyuh Shou[Best Supporting Actor]
助演男優賞(Best Supporting Actor)は、主演俳優を支えながらも作品に欠かせない存在感を発揮した助演男優に贈られます。主演とは異なる役割でありながら、物語に深みと彩りを与える助演の演技はしばしば映画の質を左右します。第64回では、当時73歳のジャック・パランス(Jack Palance)が、ビリー・クリスタル主演のウェスタン・コメディ映画『シティ・スリッカーズ(City Slickers)』で強面のカウボーイ、カーリー役を演じ受賞しました。パランスはオスカー像を受け取った後、壇上でワンハンド(片手)腕立て伏せを披露し、「この年齢でもこれができる」と自らの体力を誇示したパフォーマンスは、アカデミー賞授賞式史上屈指の伝説的な名場面として語り継がれています。司会のビリー・クリスタルがこのシーンをその後のトークやモノマネで繰り返し取り上げたことも、この瞬間の文化的インパクトの大きさを物語っています。ノミネートにはトミー・リー・ジョーンズ(JFK)、ハーヴェイ・カイテル・ベン・キングズレー(ともにバグジー)、マイケル・ラーナー(バートン・フィンク)といった実力派の顔ぶれが揃っていました。
| 受賞 Winner |
シティ・スリッカーズ[City Slickers] |
| ノミネート Nominees |
JFK |
助演女優賞 / Joen Joyuh Shou[Best Supporting Actress]
助演女優賞(Best Supporting Actress)は、映画において主演女優を支えながらも独自の存在感と演技力で作品を豊かにした助演女優に贈られます。第64回では、マーセデス・ルール(Mercedes Ruehl)がテリー・ギリアム監督の幻想的な傑作『フィッシャー・キング(The Fisher King)』で、心に傷を負った男(ジェフ・ブリッジス)を一途に支え愛し続ける個性的なビデオショップの店主役を演じ、受賞しました。ルールの演技は繊細なユーモアと深い感情表現を兼ね備えており、ブリッジスとロビン・ウィリアムズという二大俳優と対等に渡り合う存在感が審査員に高く評価されました。また、ノミネートには『ランブリング・ローズ』のダイアン・ラッド(Diane Ladd)も名を連ね、同作で主演女優賞にノミネートされた実の娘・ローラ・ダーン(Laura Dern)とともに、同一映画・同一授賞式で母娘がそれぞれ演技賞ノミネートという前例のない快挙を達成しました。この母娘ダブルノミネートは映画史の記録として今も語り継がれています。
| 受賞 Winner |
フィッシャー・キング[The Fisher King] |
| ノミネート Nominees |
ランブリング・ローズ[Rambling Rose] |
脚本賞 / Kyakuhon Shou[Best Screenplay Written Directly for the Screen]
脚本賞(Best Original Screenplay)は、既存の作品を原作とせず、映画のためにゼロから書き下ろされたオリジナル脚本に贈られます。物語の独創性・対話の質・構成の巧みさなどが評価対象となります。第64回では、カーリー・クーリ(Callie Khouri)が自身にとって初の脚本作品となる『テルマ&ルイーズ(Thelma & Louise)』で受賞しました。クーリはこの脚本を1987年に書き上げ、4年越しで映画化が実現。抑圧的な日常から逃げ出した2人の女性のロードムービーという革新的な物語は、フェミニズム的視点を鮮やかに昇華した作品として映画史に深く刻まれています。女性脚本家によるオリジナル脚本がこれほど高く評価されたことは、当時の映画業界において非常に画期的なことでした。ノミネートにはジョン・シングルトン(ボーイズ'ン・ザ・フッド)、リチャード・ラグラヴェネーズ(フィッシャー・キング)なども名を連ねました。
| 受賞 Winner |
テルマ&ルイーズ[Thelma & Louise] |
| ノミネート Nominees |
ボーイズ’ン・ザ・フッド[Boyz n the Hood] |
脚色賞 / Kyakushoku Shou[Best Screenplay Based on Material Previously Produced or Published]
脚色賞(Best Adapted Screenplay)は、小説・戯曲・ノンフィクション・他の映画など既存の素材をもとに書き起こされた映画脚本に贈られます。原作の魅力を保ちながら映画という媒体に最適化する技術と創造性が問われます。第64回では、テッド・タリー(Ted Tally)がトマス・ハリスの同名ベストセラー小説(1988年刊行)を見事に映画脚本へ昇華させた『羊たちの沈黙』で受賞しました。タリーは原作の複雑な心理描写と緊迫した対話シーンを巧みに映画的文脈に置き換えることに成功し、特にクラリスとレクターの面会シーンの脚色は、映画脚色の教科書的な傑作として現在も高く評価されています。ノミネートにはアニエスカ・ホランド(僕を愛したふたつの国/ヨーロッパ ヨーロッパ)、オリバー・ストーン&ザカリー・スクラー(JFK)などが名を連ね、多様な原作を持つ意欲的な作品群が競い合いました。
| 受賞 Winner |
羊たちの沈黙[The Silence of the Lambs] |
| ノミネート Nominees |
僕を愛したふたつの国/ヨーロッパ ヨーロッパ[Europa Europa] |
外国語映画賞 / Gaikokugo Eiga Shou[Best Foreign Language Film]
外国語映画賞(Best Foreign Language Film、現在は国際長編映画賞に名称変更)は、英語以外の言語で主に製作された映画の中で、最も優れた作品に贈られます。各国の映画委員会が1作品を選出して出品し、世界各国の映画芸術が競い合う国際色豊かな部門です。第64回では、イタリアのガブリエレ・サルヴァトレス(Gabriele Salvatores)監督による『エーゲ海の天使(Mediterraneo)』が受賞しました。第二次世界大戦中にギリシャの孤島に取り残されたイタリア兵たちの人間模様を温かくユーモラスに描いたこの作品は、戦争映画でありながら平和と人間愛をテーマにした秀作として世界中で高い評価を受けました。また、中国の巨匠・張芸謀(チャン・イーモウ)監督が当時香港代表として出品した『紅夢(Raise the Red Lantern)』もノミネートされており、1990年代初頭のアジア映画の急速な国際的台頭を象徴するノミネートとなりました。
| 受賞 Winner |
エーゲ海の天使[Mediterraneo] |
| ノミネート Nominees |
春にして君を想う[Children of Nature] |
長編ドキュメンタリー映画賞 / Chouhen Documentary Eiga Shou[Best Documentary Feature]
長編ドキュメンタリー映画賞(Best Documentary Feature)は、現実の人物・社会・出来事・文化などを記録したノンフィクション長編映画作品の中で、最も優れた作品に贈られます。ドキュメンタリー映画は、フィクション映画では描けないリアルな現実と人間の真実を映し出し、社会的認識を変える力を持っています。第64回では、アリー・ライト(Allie Light)とアーヴィング・サラフ(Irving Saraf)が監督・制作した『In the Shadow of the Stars』が受賞しました。この作品は、サンフランシスコ・オペラで活躍するコーラス歌手たちの知られざる日常生活と夢を追う姿を丁寧に記録したドキュメンタリーで、スポットライトを浴びるソリスト(主演歌手)の陰で舞台を支える合唱団員たちの情熱・葛藤・才能・そして現実との折り合いを生き生きと描いています。音楽の世界における主役と脇役の対比を通じて、夢と現実、芸術と生活のはざまに生きるアーティストたちの人間ドラマが感動的に紡がれており、音楽ファンのみならず広く映画ファンの心を打つ傑作ドキュメンタリーです。
| 受賞 Winner |
In the Shadow of the Stars ⇒ Allie Light、アーヴィング・サラフ[Irving Saraf] |
| ノミネート Nominees |
Death on the Job |
短編ドキュメンタリー映画賞 / Tanpen Documentary Eiga Shou[Best Documentary Short Subject]
短編ドキュメンタリー映画賞(Best Documentary Short Subject)は、上映時間40分以内の短編ノンフィクション映画作品の中で最も優れた作品に贈られます。限られた尺の中で社会的メッセージや人間ドラマを凝縮して伝える力と独自の視点が評価されます。第64回では、デブラ・チェイスノフ(Debra Chasnoff)監督の『Deadly Deception: General Electric, Nuclear Weapons and Our Environment』が受賞しました。このドキュメンタリーは、世界的大企業GE(ゼネラル・エレクトリック)社の核兵器製造への深い関与と、その製造過程で生じた深刻な環境汚染の実態を告発した社会派作品です。「我々はあなたに命をもたらす(We bring good things to life)」というGEの広告スローガンと、実際の核兵器製造が引き起こした環境汚染・健康被害の現実との鮮烈な対比が視聴者に強い衝撃を与えました。本作は受賞後、核兵器産業と民間企業の癒着・環境問題に対する社会的関心を高めることに大きく貢献しました。
| 受賞 Winner |
Deadly Deception: General Electric, Nuclear Weapons and Our Environment |
| ノミネート Nominees |
Birdnesters of Thailand |
短編映画賞 / Tanpen Eiga Shou[Best Live Action Short Film]
短編映画賞(Best Live Action Short Film)は、上映時間40分以内の実写短編映画作品の中で最も優れた作品に贈られます。この部門は、大規模な制作費や長尺の物語に頼ることなく、映像表現の本質的な力によって短時間で観客を引き込む映画制作者の才能を讃えるものです。映画監督・脚本家のキャリアの登竜門ともなっており、過去には短編映画でのノミネート・受賞経験を持つ監督が後に長編で大成功を収める例も多く、映画業界の新しい才能を発掘する場としても重要な意味を持っています。第64回では、セス・ウィンストン(Seth Winston)とロバート・N・フライド(Rob Fried)が制作した『Session Man』が受賞しました。この作品は、ロック音楽の世界で長年セッション・ミュージシャンとして活動してきた主人公が、自分自身の音楽と向き合いアイデンティティを問い直す過程を描いた、音楽と人間の内なる創造性をテーマにした感動的な短編映画です。無名でありながら音楽シーンを影で支えてきたミュージシャンの葛藤をリアルに描写し、短い尺の中に深い人間ドラマを凝縮しています。
| 受賞 Winner |
Session Man |
| ノミネート Nominees |
Birch Street Gym |
短編アニメ賞 / Tanpen Anime Shou[Best Animated Short Film]
短編アニメ賞(Best Animated Short Film)は、セルアニメ・CG・クレイアニメ・ストップモーションなど、あらゆるアニメーション技法を用いた上映時間40分以内の短編映画作品の中で、最も優れた作品に贈られます。アニメーションという表現媒体が持つ無限の可能性と、制作者の独創性・芸術性を高く評価する部門です。第64回では、イギリス人アニメーター、ダニエル・グリーブス(Daniel Greaves)が制作した6分間の傑作『Manipulation』が受賞しました。この作品は、アニメーターの手がスケッチブックから飛び出した鉛筆描きのキャラクターと格闘するというメタフィクション的なコンセプトが秀逸で、アニメーションという表現形式そのものを問い直す哲学的な深みを持っています。実写の手とアニメーションのキャラクターが同一画面上でリアルタイムに対話・衝突するという革新的な映像技法は、当時の映画界に強い衝撃を与えました。キャラクターが「創られる存在」として自らの存在を認識し、創造主(アニメーター)に抵抗するという物語は、芸術における創造と被創造の関係を鋭くユーモラスに表現した傑作です。
| 受賞 Winner |
Manipulation |
| ノミネート Nominees |
Blackfly |
作曲賞 / Sakkyoku Shou[Best Original Score]
作曲賞(Best Original Score)は、映画のために新たに作曲されたオリジナルの音楽スコア全体に贈られます。映画音楽は物語の感情を増幅させ、シーンに不可欠な雰囲気を与えることから、映画の品質を決定づける重要な要素です。第64回では、アラン・メンケン(Alan Menken)が『美女と野獣(Beauty and the Beast)』の壮大かつ繊細なオーケストラスコアで受賞しました。ブロードウェイ・ミュージカルの文法をアニメーション映画に融合させたメンケンの音楽は、ディズニー・ルネサンス(1989〜1999年)の黄金時代を象徴するサウンドとして今も世界中で愛されています。イタリアの巨匠エンニオ・モリコーネ(ジョン・ウィリアムズと並ぶ世界最高峰の映画音楽作曲家)がバグジーでノミネートされ、ジョン・ウィリアムズ自身もJFKでノミネートされるという豪華な競演となりました。
| 受賞 Winner |
美女と野獣[Beauty and the Beast] |
| ノミネート Nominees |
バグジー[Bugsy] |
歌曲賞 / Kashou Shou[Best Original Song]
歌曲賞(Best Original Song)は、映画のために書き下ろされた楽曲の中で、最もその映画を印象づけ、楽曲単体としても高い完成度を持つオリジナルソングに贈られます。第64回では、アラン・メンケン(Alan Menken)作曲、ハワード・アッシュマン(Howard Ashman)作詞のタイトルソング「Beauty and the Beast」が受賞しました。セリーヌ・ディオンとペボ・ブライソンがデュエットで歌い上げたこの楽曲は、映画の感動的なクライマックスで流れるエンドソングとして世界中のリスナーを魅了し続けています。作詞家ハワード・アッシュマンは1991年3月にエイズ合併症で35歳の若さで他界しており、この受賞は没後の追悼受賞となりました。会場に集まった関係者と観客が彼の功績を称え、深い感動の中での受賞発表となりました。また、ノミネートされた5曲のうち「Beauty and the Beast」「Be Our Guest」「Belle」の3曲が全て同一作品『美女と野獣』の楽曲であるという前例のない異例の結果となり、この作品の音楽的完成度の高さを示すものとなりました。
| 受賞 Winner |
“Beauty and the Beast" – 美女と野獣[Beauty and the Beast] |
| ノミネート Nominees |
“Be Our Guest" – 美女と野獣[Beauty and the Beast] |
音響編集賞 / Onkyou Henshuh Shou[Best Sound Effects Editing]
音響編集賞(Best Sound Effects Editing)は、映画における音響効果の創造・編集・デザインに対して贈られます。銃声・爆発音・機械音・自然音など、映画に臨場感をもたらす音響効果の独創性と技術的完成度が評価されます。第64回では、ゲイリー・ライドストロム(Gary Rydstrom)とグロリア・S・ボーダーズ(Gloria S. Borders)が『ターミネーター2(Terminator 2: Judgment Day)』で受賞しました。液体金属ターミネーターT-1000の変形音、ショットガンや重火器の迫力ある発砲音、機械的な動きと破壊の音など、従来の映画音響の概念を大きく塗り替える革新的なサウンドデザインが高く評価されました。ライドストロムはこの年、録音賞でも受賞(またはノミネート)しており、音響部門における卓越した才能を発揮しました。
| 受賞 Winner |
ターミネーター2[Terminator 2: Judgment Day] |
| ノミネート Nominees |
バックドラフト[Backdraft] |
録音賞 / Rokuon Shou[Best Sound]
録音賞(Best Sound)は、映画全体における録音・音響ミキシングの技術的完成度に対して贈られます。俳優の台詞・音楽・効果音のバランスと音質、場面ごとの空間的な広がりや臨場感の表現など、総合的な音響品質が評価されます。第64回では、トム・ジョンソン(Tom Johnson)、ゲイリー・ライドストロム(Gary Rydstrom)、ゲイリー・サマーズ(Gary Summers)、リー・オルロフ(Lee Orloff)の4名が『ターミネーター2(Terminator 2: Judgment Day)』で受賞しました。同作は音響編集賞も受賞しており、音響部門でのダブル受賞を達成しました。史上屈指の大型SF映画として製作されたターミネーター2の圧倒的な音響体験は、映画館で観る迫力という映画体験の本質を体現するものとして高く評価されました。美女と野獣・JFK・羊たちの沈黙もノミネートされており、いずれも独自の音響美学を持つ作品ばかりでした。
| 受賞 Winner |
ターミネーター2[Terminator 2: Judgment Day] |
| ノミネート Nominees |
バックドラフト[Backdraft] |
美術賞 / Bijutsu Shou[Best Art Direction]
美術賞(Best Art Direction、現在はプロダクション・デザイン賞に名称変更)は、映画における舞台・セット・建物・インテリア等のプロダクションデザインと、それらの空間を彩るセット装飾の芸術的卓越性に対して贈られます。映画の時代考証・世界観の再現・視覚的美しさを担う重要な部門です。第64回では、プロダクションデザイナーのデニス・ガスナー(Dennis Gassner)とセット装飾担当のナンシー・ハイ(Nancy Haigh)が『バグジー(Bugsy)』で受賞しました。1940年代のラスベガス誕生の歴史と同時代のハリウッドを豪奢かつ精緻に再現したセットは、観る者をタイムスリップさせるような没入感を生み出し、映画の世界観構築に決定的な役割を果たしました。興味深いのは、受賞したガスナー&ハイのコンビが、ノミネート作品の『バートン・フィンク(Barton Fink)』でも同年に選出されており、同一クリエイターが同年2作品でノミネートされるという珍しい事態が生じたことです。
| 受賞 Winner |
バグジー[Bugsy] |
| ノミネート Nominees |
バートン・フィンク[Barton Fink] |
撮影賞 / Satsuei Shou[Best Cinematography]
撮影賞(Best Cinematography)は、映画の視覚的な美しさ・光と影の使い方・カメラワーク・構図・色彩設計など、撮影監督(シネマトグラファー)の技術と芸術性に対して贈られます。優れたシネマトグラフィーは物語の感情を視覚的に表現し、映画体験の核心を形成します。第64回では、ロバート・リチャードソン(Robert Richardson)がオリバー・ストーン監督の問題作『JFK』で受賞しました。リチャードソンはケネディ暗殺事件の謎を追うこの映画で、実際のニュース映像・8mmホームフィルム・白黒映像・カラー映像・手持ちカメラ撮影・通常の映画的撮影などを複雑に組み合わせることで、歴史的事実と劇映画のはざまを漂うような独自の映像美学を実現しました。アレン・ダヴィオー(バグジー)、アダム・グリーンバーグ(ターミネーター2)、エイドリアン・ビドル(テルマ&ルイーズ)といった実力派撮影監督たちが競い合いました。
| 受賞 Winner |
JFK |
| ノミネート Nominees |
バグジー[Bugsy] |
メイクアップ賞 / Makeup Shou[Best Makeup]
メイクアップ賞(Best Makeup、現在はメイクアップ&ヘアスタイリング賞に名称変更)は、映画における特殊メイク・キャラクターメイク・エイジング処理・SF/ファンタジー向けの変身メイクなど、メイクアップ技術の芸術的卓越性に対して贈られます。俳優の素顔を別のキャラクターや生物に変える創造的な作業は映画の魔法の核心であり、その技術が高く評価される部門です。第64回では、スタン・ウィンストン(Stan Winston)とジェフ・ドーン(Jeff Dawn)が『ターミネーター2(Terminator 2: Judgment Day)』で受賞しました。液体金属でできたターミネーター T-1000(ロバート・パトリック)の人体変形シーンは、CGI技術と実際のメイクアップ・プロスセティクスの絶妙な組み合わせによって実現されており、映画の特殊効果メイクの歴史に残る革新的な仕事として評価されました。スタン・ウィンストンは視覚効果賞でも受賞しており、同一映画での複数部門受賞を達成したT2チームの一員として輝かしい功績を残しました。
| 受賞 Winner |
ターミネーター2[Terminator 2: Judgment Day] |
| ノミネート Nominees |
フック[Hook] |
衣裳デザイン賞 / Ishou Design Shou[Best Costume Design]
衣裳デザイン賞(Best Costume Design)は、映画の登場人物が身に着ける衣服・アクセサリー等の衣裳の芸術性・独創性・時代考証の正確さなどを評価して贈られます。衣裳は登場人物のキャラクター性・社会的地位・時代背景を視覚的に表現する重要な映画要素であり、衣裳デザイナーはその作品世界を創り上げる重要な芸術的貢献者です。第64回では、アルバート・ウォルスキー(Albert Wolsky)が伝説的ギャング、バグジー・シーゲルの半生を描いた映画『バグジー(Bugsy)』で受賞しました。1940年代のハリウッドとラスベガスを舞台にした本作で、ウォルスキーはウォーレン・ベイティをはじめとする登場人物たちに当時のファッションを豪奢かつ精緻に着こなさせ、時代と登場人物のキャラクターを同時に表現することに成功しました。美術賞との2冠達成も、バグジーがこの時代の映像的再現において突出した完成度を誇っていたことを証明しています。
| 受賞 Winner |
バグジー[Bugsy] |
| ノミネート Nominees |
アダムス・ファミリー[The Addams Family] |
編集賞 / Henshuh Shou[Best Film Editing]
編集賞(Best Film Editing)は、映画の編集(カッティング・モンタージュ・テンポ設計・物語の再構成)の技術に対して贈られます。編集は撮影された膨大な素材の中から最良のものを選び、物語の流れ・リズム・感情の高まりを生み出す「映画の最後の執筆」とも呼ばれる重要な工程です。第64回では、ピエトロ・スカラ(Pietro Scalia)とジョー・ハッシング(Joe Hutshing)が、3時間9分に及ぶ大作『JFK』で受賞しました。本物のニュースフィルム・再現映像・白黒とカラーの混在など、多様な素材を駆使しながら、ケネディ暗殺をめぐる複雑な陰謀論を緊迫した法廷劇として仕上げるために必要な膨大な編集作業が高く評価されました。オリバー・ストーン監督の大胆な語り口を実現したこの編集は、政治サスペンス映画における編集技術の金字塔として映画学の教材でも取り上げられています。
| 受賞 Winner |
JFK |
| ノミネート Nominees |
ザ・コミットメンツ[The Commitments] |
視覚効果賞 / Shikaku Kouka Shou[Best Visual Effects]
視覚効果賞(Best Visual Effects)は、映画における視覚的な特殊効果技術(CGI・ミニチュア撮影・光学合成・デジタル合成等)の卓越性と革新性に対して贈られます。視覚効果は映画が現実では不可能な映像世界を実現するための根幹技術であり、その発展が映画表現の可能性を絶えず押し広げてきました。第64回では、デニス・ミューレン(Dennis Muren)・スタン・ウィンストン(Stan Winston)・ジーン・ウォーレン・Jr(Gene Warren Jr.)・ロバート・スコタック(Robert Skotak)が『ターミネーター2(Terminator 2: Judgment Day)』で受賞しました。ILM(インダストリアル・ライト&マジック)が開発した液体金属ターミネーターT-1000のモーフィング変形映像は、当時のCGI技術の最前線を大きく押し広げるものであり、映画の視覚効果史における最重要マイルストーンの一つとして今日でも語り継がれています。『ジュラシック・パーク』(1993年)をはじめ、その後のCG技術を用いた大作映画の先鞭をつけた革命的受賞でもありました。
| 受賞 Winner |
ターミネーター2[Terminator 2: Judgment Day] |
| ノミネート Nominees |
バックドラフト[Backdraft] |
第64回アカデミー賞(1992年)のまとめ
1992年3月30日にカリフォルニア州ロサンゼルスのドロシー・チャンドラー・パビリオン(Dorothy Chandler Pavilion)で開催された第64回アカデミー賞授賞式は、映画史において数多くの記録と伝説が生まれた、まさに歴史的な式典でした。司会のビリー・クリスタル(Billy Crystal)が持ち前の知性的なユーモアと才気あふれるモノマネで場を盛り上げる中、1991年に公開された名作の数々が競い合い、後世に語り継がれる受賞結果が次々と誕生しました。以下に主要なハイライトをまとめます。
【作品・演技部門】
- 『羊たちの沈黙』が史上3作目のビッグファイブを完全制覇 – 作品賞・監督賞・主演男優賞・主演女優賞・脚色賞の主要5部門を独占し、1934年の『或る夜の出来事』、1975年の『カッコーの巣の上で』に続くアカデミー賞史上3作目のビッグファイブ達成という快挙を成し遂げました。ホラー・スリラー映画が作品賞を受賞したのは史上初のことであり、この記録は現在も破られていません。アンソニー・ホプキンスはわずか約16分のスクリーン出演時間で主演男優賞を受賞し、ジョディ・フォスターは2度目の主演女優賞を獲得しました。
- 『ターミネーター2』が技術部門4冠を達成 – 視覚効果賞・音響編集賞・録音賞・メイクアップ賞の技術4部門を独占し、CGIとモーフィング技術による新しい映画表現の時代の幕開けを宣言しました。ILMが開発した液体金属T-1000の変形映像は映画史の視覚効果における最重要マイルストーンの一つとして記録されています。
- ジャック・パランスの伝説的な授賞式パフォーマンス – 73歳のジャック・パランスが助演男優賞受賞の壇上でワンハンド腕立て伏せを披露し、アカデミー賞授賞式史上屈指の名場面を作り出しました。
- 母娘同時ノミネートの快挙 – ローラ・ダーン(主演女優賞)と母のダイアン・ラッド(助演女優賞)が同一の授賞式で母娘ともにノミネートされる前例のない記録を達成しました。
- ジョン・シングルトンが23歳で監督賞最年少ノミネート記録 – 『ボーイズ'ン・ザ・フッド』のジョン・シングルトンがアフリカ系アメリカ人として史上最年少の監督賞ノミネートを果たし、映画界の多様性と新世代の台頭を示しました。
【音楽・アニメーション部門】
- 『美女と野獣』がアニメーション映画史に新たな扉を開く – アニメーション映画として史上初めて作品賞にノミネートされ、作曲賞・歌曲賞の2部門を受賞しました。歌曲賞ノミネート5曲中3曲を同作品の楽曲が独占するという前例のない結果となり、ディズニー・ルネサンスの音楽的頂点を象徴しました。1991年3月に急逝した作詞家ハワード・アッシュマンへの感動的な追悼受賞ともなりました。
【映像技術・脚本部門】
- 『バグジー』が美術賞・衣裳デザイン賞の2部門受賞 – 1940年代のラスベガス誕生とハリウッドの黄金期を豪奢かつ精緻に再現したプロダクションデザインと衣裳が高く評価されました。
- 『JFK』が撮影賞・編集賞の2部門受賞 – 複数の映像フォーマットを融合させたロバート・リチャードソンの革新的な撮影と、膨大な素材を3時間超の緊迫した物語に構成した編集の技術が認められました。
- 『テルマ&ルイーズ』が脚本賞を受賞 – カーリー・クーリのオリジナル脚本が評価され、フェミニズム映画の金字塔として現在も世界中で再評価が続いています。
第64回アカデミー賞 部門別受賞作品 集計
| 作品名 | 受賞部門数 | 受賞部門 |
| 羊たちの沈黙 | 5部門 | 作品賞・監督賞・主演男優賞・主演女優賞・脚色賞 |
| ターミネーター2 | 4部門 | 視覚効果賞・音響編集賞・録音賞・メイクアップ賞 |
| 美女と野獣 | 2部門 | 作曲賞・歌曲賞 |
| バグジー | 2部門 | 美術賞・衣裳デザイン賞 |
| JFK | 2部門 | 撮影賞・編集賞 |
| テルマ&ルイーズ | 1部門 | 脚本賞 |
| フィッシャー・キング | 1部門 | 助演女優賞 |
| シティ・スリッカーズ | 1部門 | 助演男優賞 |
| エーゲ海の天使 | 1部門 | 外国語映画賞 |
第64回アカデミー賞が対象とした1991年は、サイコスリラー・SF・アニメーション・フェミニズム・ロードムービー・政治サスペンス・社会派ドラマと、多彩かつ質の高いジャンルの映画が花開いた映画史的に極めて重要な年でした。特に『羊たちの沈黙』のビッグファイブ達成と『ターミネーター2』によるCGI技術革命は、1990年代以降の映画表現に甚大な影響を与え続けています。また、アニメーション映画の作品賞ノミネート(『美女と野獣』)は、後の2002年に創設されたアカデミー賞長編アニメーション映画賞という新部門の誕生に繋がる歴史的転換点となりました。これらの作品は公開から30年以上を経た現在もなお、映画史の教科書に名を連ね、世界中の映画ファンに愛され続けています。ぜひこの機会に、名作揃いの1991年度映画を改めてご鑑賞ください。

